忍者ブログ
もしも 。。。
[19]  [18]  [17]  [16]  [15]  [14]  [13]  [12]  [11]  [10]  [9
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

才丸行き

長塚節


 起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、


 滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにしてこごんだ儘走つた、炭坑會社の輕便鐵道を十町ばかり行つ て爪先あがりにのぼる、左は崖になつて、崖の下からは竹が疎らに生えて居る、木肌の白い漆がすい/\と立ち交つて居る、漆の皮にはぐるつとつけた刄物の跡 が見える、山芋の枯れた蔓が途中から切れた儘絡まつて居る、
 小豆畑といふ小村へ來た、槎たる柿の大木は青い苔が蒸して幾本となく立つて居る、柿の木の下には小區域の麥が僅に伸び出して、菜の花が短くさき掛けて居る、ところ/\に梅が眞白である、


 小豆畑を出拔けると道は溪流に沿うて山の峽間にはひる、笹はぼつさりと水の上に覆ひかぶさつて、山芋の蔓がびつしりと絆つて居る、頬白が淋しく啼きなが ら白い翅を表はして飛び出る、十三四位の女の子がついて小束の矢篠を背負つた馬がぼくたり/\とやつて來る、脚から腹まで一杯に泥がついて見すぼらしい姿 である、


 素性よくしげつた杉のほとりを行く、此あたりの道は規則正しく拵へたやうに、横に一文字に低くなつては高くなり、又低くなつては高くなつてる、どこまでも同じやうである、低い所は蹄の趾で馬は必ずそこを踏む、泥水が溜つて居る、余等は飛び/\に高い所を踏んで行く、

PR
この記事にコメントする
name
title
color
mail
URL
comment
password   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Powered by Ninja Blog Photo by COQU118 Template by CHELLCY / 忍者ブログ / [PR]