もしも 。。。
才丸行き
長塚節
起きて見ると思ひの外で空には一片の雲翳も無い、唯吹き颪が昨日の方向と變りがないのみである、
滑川氏の案内で出立した、正面からの吹きつけで體が縮みあがるやうに寒い、突ンのめるやうにしてこごんだ儘走つた、炭坑會社の輕便鐵道を十町ばかり行つ て爪先あがりにのぼる、左は崖になつて、崖の下からは竹が疎らに生えて居る、木肌の白い漆がすい/\と立ち交つて居る、漆の皮にはぐるつとつけた刄物の跡 が見える、山芋の枯れた蔓が途中から切れた儘絡まつて居る、
小豆畑といふ小村へ來た、槎たる柿の大木は青い苔が蒸して幾本となく立つて居る、柿の木の下には小區域の麥が僅に伸び出して、菜の花が短くさき掛けて居る、ところ/″\に梅が眞白である、
小豆畑を出拔けると道は溪流に沿うて山の峽間にはひる、笹はぼつさりと水の上に覆ひかぶさつて、山芋の蔓がびつしりと絆つて居る、頬白が淋しく啼きなが ら白い翅を表はして飛び出る、十三四位の女の子がついて小束の矢篠を背負つた馬がぼくたり/\とやつて來る、脚から腹まで一杯に泥がついて見すぼらしい姿 である、
素性よくしげつた杉のほとりを行く、此あたりの道は規則正しく拵へたやうに、横に一文字に低くなつては高くなり、又低くなつては高くなつてる、どこまでも同じやうである、低い所は蹄の趾で馬は必ずそこを踏む、泥水が溜つて居る、余等は飛び/\に高い所を踏んで行く、
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