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生活



なににこがれて書くうたぞ
一時にひらくうめすもも
すももの蒼さ身にあびて
田舎暮らしのやすらかさ


 私はこのうたが好きで、毎日この室生(むろう)さんのうたを唱歌のようにうたう。「なににこがれて書くうたぞ」全く、このうたの通り、私はなににこがれているともなく、夜更(ふ)けて、ほとんど毎日机に向っている。そうして、やくざなその日暮らしの小説を書いている。夕御飯が済んで、小さい女中と二人で、油ものは油もの、茶飲み茶碗は茶飲み茶碗と、あれこれと近所の活動写真の話などをしながらかたづけものをして、剪花(きりばな)に水を替えてやっていると、もうその頃はたいてい八時が過ぎている。三ツの夕刊を手にして、二階の書斎へあがって行くと、火鉢の火がおとろえている。炭をつぎ、鉄瓶(てつびん)をかけて、湯のわくあいだ、私は三ツの夕刊に眼をとおすのだ。うちでとっているのは、朝日新聞、日日新聞、読売新聞の三ツで、まず眼をとおすのは、芝居や活動の広告のようなものだ。女の心がある、行ってみたいなと思う。永遠の誓いと云うのがある、みんな観に行きたいと思いながら、その広告が場末(ばすえ)の小舎(こや)にかかるまで行けないでしまうことがたびたびなのだ。

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